80%ぐらいのがんばり

娘との生活や読んだ本など

津村記久子のインタビューが琴線に触れたので小説も読んでみた

この人好きかも!インタビュー記事をきっかけに津村記久子に興味を持つ

津村記久子さんの小説を初めて読んでみました。

きっかけは、ビッグイシュー第385号のインタビュー。

人間は”開かれた資源”があればそこそこ幸せに生きていける

津村記久子のインタビュー記事と小説表紙

津村記久子は”私の分岐点”というインタビューに登場

この見出しが目に飛び込んできて、インタビュー内容にぐっと心を掴まれて「この人の本を読もう!」となった次第です(本当は直接読んでほしいのですが、ビッグイシューという雑誌の特性上、手に入れにくい方も多いと思います。以下引用多め、詳しく内容をまとめます)。

BIGISSUE385号の表紙

BIGISSUE385号 アダム・ランバートの表紙が目印なので興味のある方はぜひ購入を!

ビッグイシューのインタビューによると、津村記久子さんは1978年生まれの就職氷河期世代のど真ん中。新卒で入った会社でパワハラに遭い、退職を余儀なくされたそうです。

当時はメンタルがボロボロだったようですが、職業カウンセラーさんの何気ない言葉に救われ、自己肯定感が復活。その後は、転職し、兼業作家としての道を歩みます(2009年『ポトスライムの舟』で芥川賞受賞。Wikpediaによると2012年に専業作家となっています)。

インタビューでは、

家族や友人のことを指して「私は周囲の人に恵まれた」と言う人がいるけれど、それだとどのような家族のもとに生まれるか、運や環境に依存する割合が大きくなってしまう。

だからこそ、自分を救ってくれる存在を身近な人に限定しないほうがいい。偶然の出会った他人が自分を救ってくれることもある。

津村さん自身が初対面の職業カウンセラーさんに救われた経験から、また子供のころから本を読むことで救われてきた経験から「人間は”開かれた資源”があればそこそこ幸せに生きていける」と語っています。

あとは津村さんは未婚子なしらしいのですが

世間が「ひどりぼっちでかわいそう」と言ってきた時は「今やってるゲームがいい調子で最高に幸せ」とか言うと大体ひいていきますよ(笑)

の発言が最高ですね。

幸せの基準を押し付ける人間をとにかく問答無用で黙らせる感じが(笑)

不器用な仕事熱心さが愛しい『この世にたやすい仕事はない』

さて、小説家・津村記久子に興味を抱いた私は、太宰治賞を受賞したデビュー作『マンイーター』(単行本タイトルは『君は永遠にそいつらより若い』)と、『この世にたやすい仕事はない』を手始めに読んだわけです。

津村記久子作『君は永遠にそいつらより若い』と『この世にたやすい仕事はない』

初津村には『君は永遠にそいつらより若い』と『この世にたやすい仕事はない』をチョイス

ここでは『この世にたやすい仕事はない』(日本経済新聞社)の感想を記しておきます。

『この世にたやすい仕事はない』は、燃え尽き症候群で退職した36歳女性が、職業紹介所で紹介された、少し変わった仕事を経験していく連作短編集です。

ミステリーやファンタジー的要素もありつつ、バーンアウトした主人公が5つの仕事を通して立ち直っていく…というか、自分と仕事との適切な距離感を測りなおしていく様子が描かれています。

主人公が1年間で体験するのは、以下の5つの仕事。怪しさ満点のものから、地味だけど割と面白そうなものまで多種多様です。

  1. みはりのしごと
  2. バスのアナウンスのしごと
  3. おかきの袋のしごと
  4. 路地を訪ねるしごと
  5. 大きな森の小屋での簡単なしごと

この36歳の主人公、多少癖のある人物かもしれませんが、私は好感を抱きました。

バーンアウトするのがよくわかります。仕事に生きがいを求めているわけではないのに、気が付けば仕事熱心になってしまう感じが(苦笑)

1つ目の「みはりのしごと」ではまだまだ前職の傷が癒えておらず、2つ目の「バスのアナウンスのしごと」ではやや意欲を取り戻すものの、不可思議な現象に右往左往したりとなかなか心の平穏が訪れません。

それでも3つ目の「おかきの袋のしごと」以降は、おそらく生来の仕事熱心さを発揮していきます。

長く続けた前の前の前の仕事を、燃え尽きるようにして辞めてしまったので、あまり仕事に感情移入すべきではないというのは頭ではわかっていたが、仕事に対して一切達成感を持たないということもまた難しい。

わかる、わかるよ。

一生懸命やるつもりはなくても、真面目にはやりたいし、真面目にやると「もっとこうやればうまくいくのでは?」など考えたり…。

私自身においては、この仕事に関してはそこそこという程度の好きだったけれども、やはり情熱的に誇りを持って仕事に取り組んでいる人間に対しては、どうしても無条件に敬意を持ってしまう。そういう気持ちが、働いていく上での自分を苦しめることがあるのは重々わかっているつもりなのだが。

主人公は4つ目「路地を訪ねるしごと」では、仕事熱心の域を通り越した、使命感を発揮。

事情によりある団体と敵対するのですが「こざかしいんだよ」という罵倒に対し、

まあその通りだなと思う。でもそれは、社会に出て十数年もした人間に対しては誉め言葉だ。そうだよくこざかしくなったな私。えらいぞ。

と燃え尽きはしたけれど、ボロボロではあるけれど、今まで働いて自分を生かしてきた自負のようなものも感じられます。

タイトルの通り、この世にたやすい仕事はないのでしょうね。だからこそ、この世につまらない仕事もないと思えます。

読後は意外に爽やかで「ああわかったよ、私も働くよ。生きていかなきゃならないからね!」と仕事へのやる気がちょっとだけ湧いてきます。